素敵な出会いをするには ★ その一

 


 

 街角で素敵な出会いをするには。

 男は少しくたびれたトレンチコート。女はシックなファーコート。季節は秋。秋でなければコートは羽織れない。コートがなければ街角の素敵な出会いは演出できない。雨上がりの夕刻、二人とも孤独を抱え、俯きながら歩いていたので、出会い頭に避けきれず、女はびっくりしてフランスパンとオレンジの入った紙袋を落としてしまう。男は謝罪し、濡れそぼちた歩道に転がるオレンジとフランスパンを拾い上げる。が、さすがに裸のバゲットは濡れた枯葉も引っ付いて、そのまま返せる状態ではない。本当に申し訳ないことを、と女を見る男の目と、彼を見返す女の目が合う。慌てて目を逸らした男が、近くで明かりを灯すフレンチレストランを見つけ、せめてお詫びにお食事でも、と申し出る。女は頬を赤らめ、いったんは遠慮するが、男が最後に拾って返したオレンジを受け取り、そのオレンジに男の手の温もりを微かに感じながら、小さく頷く。

  ・・・と行きたいところであるが、日本では買い物袋はビニル製で、フランスパンをパッケージせずに裸のまま買う習慣もない。やっぱり茶色い紙袋から頭を覗かすバゲットじゃないと、雰囲気がね。よって、現代の日本の街角で素敵な出会いをすることはかなり難しい。

 少子化の遠因はビニル袋にありや否や!





homeへ

 
Copyright (c). 2015 overthejigen.com